湖國忠犬物語(後篇) “小石丸”の伝説

「後藤奇壹の湖國浪漫風土記」に、ようこそおいでくださいました<(_ _)>

さて今回は、人間と古来深い繋がりを持つ犬、それも忠犬と呼ばれる選ばれし犬に纏わるお話の3回シリーズ最終幕をお届け致したく存じます。

先日お届け致しました小白丸のお話ですが、何と実は似て非なるお話・・・すなわち異説が存在するのです。

犬上神社(大瀧神社境内社)

ここは中篇でご紹介致しました小白丸勇戦の地に鎮座まします大瀧神社。その境内社に犬上(いぬかみ)神社があります。御祭神は稲依別王(イナヨリワケノミコ)。滋賀では伊吹山の白猪征伐で有名な、彼の日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の第一皇子にあたります。

大瀧神社の縁起によると、その昔稲依別王という若くて強い人物がこの辺りを治めていました。稲依別王は小石丸(こいしまる)という、これまた強くて賢い犬を大事にしていました。狩猟の度に必ず獲物を捕らえることから、小石丸の評判は近隣に知れ渡っていました。

ある時、稲依別王は村人が「川の上流に大蛇が棲みつき、また一人淵の近くで姿を消した」と訴えて、毎日恐怖に慄いていることを耳にしました。そこで早速小石丸を連れて、大蛇退治に出掛けました。

小石丸絵馬

ところが七日七晩も山中を探し回ったが、大蛇はおろか虫けら一匹出てきません。疲れ果てた稲依別王は、川沿いにある松の大木の根もとで眠りこけてしまいました。

するとその夜に限って、小石丸が激しく吠えたてました。稲依別王は何とか小石丸をなだめようとしますが、一向に泣き止もうとしません。立腹した稲依別王は腰の刀を抜くや否や、小石丸の首を刎ねてしまいました。

大蛇ヶ淵(犬上川)

すると小石丸の首は凄まじい勢いで宙を飛び、松の梢に消えました。しばらくして、ヒヒの頭とも思しきお化け大蛇が、淵へと落ちていきました。その喉元には小石丸の首が、しっかりと喰らいついていました。

何と小石丸は大蛇が松の梢から稲依別王を狙っていたことを察知し、主人に窮地を知らせるために吠えたてていたのです。

稲依別王は自身の短慮を恥じ、小石丸に心から詫びました。そして小さな祠を作って、小石丸を祀りました。それが大瀧神社境内社の犬上神社と伝えられています。

犬胴松(犬胴塚)

松の大木の近くには小石丸の胴体を埋め、ねんごろに葬りました。それが現在の犬胴塚と伝えられています。

犬上神社元社(小石丸祠)

そして小石丸の首を埋めたのが、犬胴塚より川の対岸にある現在の犬上神社元社(小石丸祠)と伝えられています。

この悲しくも凄惨な事件の舞台となった地は現在大蛇ヶ淵と呼ばれ、晩秋には紅葉の大変美しい景勝地となっています。かつてはその名に恥じぬ大瀑布でしたが、日本で最初の本格的農業用コンクリートダム・犬上ダムが上流に昭和21(1946)年12月に竣工したため、残念ながら放流時を除き、その激流ぶりを垣間見ることは出来なくなってしまいました。

その後、稲依別王は穀物神として信奉され、近江の地が穀倉地帯として発展していくうえでの拠り所となりました。

・・・と何時もならここでお話は“メデタシメデタシ”となるのですが、実はこのお話にも異説・・・即ち異説の異説が存在するのです。

お話のスジはほぼ同じですのでここでは省略致しますが、小石丸の飼い主が異なります。

『近江與地志略』に因りますと、飼い主の名は犬上君(いぬかみのきみ)。この人物、前述の稲依別王の末裔とされています。

犬上君は古代、現在の彦根市や犬上郡を中心に勢力を誇っていた豪族で、滋賀県下で墳丘の規模第2位を誇り、平成23(2011)年に国の史跡に指定された荒神山古墳(彦根市)の被葬者では?とも言われています。

子孫の犬上御田鍬(いぬかみのみたすき)は小野妹子に次ぐ副使として遣隋使に参加し、後に遣唐使最初の大使も務めています。また御田鍬の子・犬上白麻呂(いぬかみのしろまろ)も遣高句麗使に任ぜられるなど、犬上氏が如何に古代日本に於いて重責を担っていたかが伺い知れます、

犬上君御館址傳説地

さて犬上君は現在の犬上郡豊郷町八目(はちめ)に居を構えていたと伝えられています。

犬上君は根っからの犬好きで、沢山の猟犬を飼っていたそうです。自身の短慮ゆえの結果とはいえ、小石丸を失った悲しみは深く、首を持ち帰り居館近くにねんごろに葬りました。

犬上神社(豊郷町八目)

それが。八目に鎮座まします犬上神社であると伝えられています。犬上神社の御祭神は、こちらも稲依別王。犬上君は特に農政に尽力し、実り豊かで肥沃な土地へと発展していきました。このことからこの地は「稲王(いなきみ)」と呼ばれ、後に「いねかみ」「いぬかみ」と訛って現在の地名になったと言われています(諸説あり)。

3回シリーズでお届けした湖國の忠犬物語ですが、蓋を開けてみれば「全ては繋がっている」という妙な結論となりました。どのお話が本筋なのかは定かではありませんが、ヒトとワンコの絆は古(いにしえ)より愛おしい程に強く結ばれていることだけは事実なようです。

大瀧神社(瀧之宮)/犬上神社・元宮犬胴塚大蛇ヶ淵

 滋賀県犬上郡多賀町大字富之尾1585
【TEL】0749-49-0004

犬上神社

 滋賀県犬上郡豊郷町大字八目41
【TEL】0749-35-8114(豊郷町観光協会)

犬上君御館址傳説地(犬上の君屋敷跡公園)

 滋賀県犬上郡豊郷町大字八目138
【TEL】0749-35-8114(豊郷町観光協会)

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