Monthly Archives: 3月 2020

中山道屈指の霊験と絶景“磨針峠”の伝説(前篇)

「後藤奇壹の湖國浪漫風土記」に、ようこそおいでくださいました<(_ _)>

(※ 現在 「新型コロナウイルス感染症予防対策に係る行動指針」が勤務先で発令されており、当方公私を問わず活動制限を実施致しております。よって令和1年までに訪問した取材ストックをもとに記事をお届け致しております。一部タイムリーさに欠如した部分がある可能性がございますが、何卒ご容赦ください。ご心配をお掛け致しております。 )

新型コロナウイルスの世界的な蔓延で、ちょっとした外出さえ躊躇される昨今。せめて当ブログを御覧になって、小さなバーチャルジャーニーをお愉しみ戴ければ幸甚です。

さて江戸時代。京の都と江戸を結ぶ陸の大動脈は、太平洋側を通る東海道と内陸部を縦断する中山道の2本の街道がありました。

近江國(滋賀県)はこの2本の街道の何れもが経路としていたのですから、如何に古くから交通の要衝として重要視されていたことが伺えます。

さて今回はかつてその大動脈の1つであった中山道屈指の霊験あらたかな景勝地として栄えていた、磨針峠(すりはりとうげ)についてのお話を致したいと存じます。

磨針峠石碑

磨針は“摺針”とも表記されます。彦根市の鳥居本(とりいもと)町から米原市の番場(ばんば)へ抜ける途中に磨針峠はあります。峠へのアプローチには国道8号沿いに石碑が立っていますので直ぐに解ります。

その昔、諸国を修業行脚していた1人の若い僧がこの峠をトボトボと登ってきました。ようやくのことで若い僧は峠の頂上に辿りつき、神社の石段に腰を掛け一休みしました。

眼下にはさざ波きらめく琵琶湖が拡がります。その素晴らしい眺めに修業の苦しさもどこかへ消え、心が洗われるような気持ちになりました。

ふと横に目をやると、白髪の老婆が一所懸命に大きな斧(おの)を石に擦り付けて磨いています。若い僧はその老婆に、「お婆さん、いったい何をしているのですか」と尋ねました。

小倉遊亀「磨針峠」(1947年)

すると老婆は笑みを浮かべながら、「実は大切な針を折ってしまい、孫の着物も縫ってやれません。そこでこうして斧を磨って針にしようとしております」と答えました。

「そんな大きな斧は、そう容易く磨り減りませんよ」と若い僧は言いますが、「どうしても針が欲しいもので…」と言って手を止めようとはしません。何とも不思議なことだと思っていたら、いつしか老婆の姿は消え、誰も居ませんでした。

若い僧は「これは神が自分に悟りを開かせるために、斧を磨って針にしようとする老婆の姿を見せたに違いない」と悟りました。そして神社に向かって手を合わせると、再び修行の旅へと向かったのです。

空海(弘法大師)

後に数々の修行を終え立派になった若い僧は、いつしか弘法大師と呼ばれるようになりました。弘法大師とは皆さんご存じ、平安初期に高野山(金剛峯寺)を開山し、真言宗の開祖となった空海のことです。

その後弘法大師は再びこの地を訪れ、神社に沢山のお餅を供えました。そして神社の境内に杉の木を植え、あの時老婆に教えられたことを次のような和歌に詠みました。

道はなほ 学ぶることの 難(かた)からむ

斧を針とせし 人もこそあれ

神明宮鳥居

以来この峠を磨針峠、神社は磨針明神と呼ばれるようになりました。

【後篇へ続く】

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湖國に春を告げる不可思議な花“ハナノキ”の伝説

「後藤奇壹の湖國浪漫風土記」に、ようこそおいでくださいました<(_ _)>

新型コロナウイルスの感染が、国内で異常な方向へと波及し、国内の経済や社会を混乱の渦へ誘っています。早期の終息を切に願います。さて今回は滋賀に梅より遅く桜より早い(?)春の到来を告げる花、ハナノキについてのお話を致したいと存じます。

・・・と言われて皆さん。“ハナノキ”という花木をご存知でしょうか?

「花が咲く木なら、みんな“ハナノキ”なんじゃないの?」と言われればそれでお終いになってしまいますので、もう少し説明させてくださいまし 。

ハナノキの花

日本固有種の花木で、何と自生しているのは長野・愛知・岐阜・滋賀の僅か4県のみ。とても希少な植物で、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。また愛知県の県木にもなっているのです。

ただ最近は栽培技術が発達し、街路樹としてや公園の花木としても植栽されるようになっています。

北花沢のハナノキ

樹高はおおむね20m。カエデ科に属する落葉樹で、花期は3~4月。 新芽が出る前に赤い花を付けるという珍しい性質を持っていますが、短命で1週間程で散ってしまうため、見頃を捉えるのは相当難しいようです。また秋は秋で葉が紅葉&黄葉し、とても風情ある光景を見せてくれます。そして滋賀は、このハナノキの巨木の自生最西端に当るのです。

東近江市北花沢町/南花沢町の国道307号沿いに、自生樹の中でも特に有名なハナノキの巨木があります。

南花沢のハナノキ

「北花沢のハナノキ」は樹高17m・樹幹周囲3m。樹齢は約260年と言われています。こちらはまだ比較的若い木です。

対して八幡神社境内にある「南花沢のハナノキ」は大樹としての貫録十分!

樹高21m・樹幹周囲5m、樹齢は約460年と言われ、こちらは平成2(1990)年に大阪・鶴見緑地で開催された「花と緑の博覧会」の事業として企画された『新日本名木100選』にも選ばれています。

…と言いたいところですが、「花と緑の博覧会」から20年後の平成22(2010 )年8月4日。 国内で最も太い主幹を誇っていた南花沢のハナノキでしたが、空洞化による樹勢の衰えにより、残念ながら倒壊してしまいました。

南花沢のハナノキ(保存されている主幹)

幸い若い幹は残り延命措置が施されているほか、主幹の一部も境内で大切に保存されています。

未だ大正天皇が皇太子であらせられた明治43(1910)年。滋賀を訪問された際、このハナノキにいたく興味を抱かれたそうです。そこで翌年10月、地元から苗木2鉢が皇室へ献上されました。これが縁となったかは定かではありませんが、共に大正10(1921)年3月3日に国の天然記念物に指定されています。

さて南花沢のハナノキが自生する八幡神社には、江戸時代中期の享保5(1720)年に奉納された『当社八幡宮竝花木記(とうしゃはちまんぐうへいかもくき)』という文献が残っています。これにはこのようなお話が記されています。

聖徳太子が未だ厩戸皇子(うまやどのみこ)と称していた頃のことです。

厩戸王(聖徳太子)

河内國(現在の大阪府)に四天王寺(してんのうじ)を創建するにあたり、蘇我馬子(そがのうまこ)に命じてこの近江國で瓦の土の選定並びに生産を命じていました。 現在、東近江市にある箕作山(みつくりやま)にある瓦屋禅寺(かわらやぜんじ)がその拠点であったと伝えられています。

皇子はそこから遥か遠くの山を眺めていました。すると東方にある高い山に不思議な光明を見付けました。皇子が近習の者にその山の名を尋ねると、「それは釈迦山です」と教えられます。

早速その光明の源を辿っていくと、何とそれは杉の霊木だったのです。皇子は立木のままの杉に十一面観世音菩薩を彫り、これを中心として東西南北の4つの谷に分けて300の堂塔を建立しました。

百済寺【滋賀県提供】

これが湖東三山の1つ、百済寺(ひゃくさいじ)の創建であると伝えられています。百済寺の造営を終えた皇子は大和國・小墾田宮(おはりだのみや)への帰り道、 2人の家来を連れ近くのとある村を訪れ休憩をとります。

南北に分かれたまだ無名であった村に、「仏法が末長く隆盛するなら、この木も成長するであろう」と皇子は霊木を一株ずつ植えました。そして村を「花沢村」と命名し、2人の家来をそれぞれの村の領主として住まわせたそうです。

また『近江名所案内記』や『淡海木間攫(おうみこのまざらえ)』では、皇子が昼の弁当を食べた際に使用していた2本の箸をそれぞれに差したものであるとしています。

さて2つの村に植えられたこの霊木ですが、誰もその名称を知りません。春になると葉の新芽が出るよりも先に花は咲かせるのですが、実はなりません。そこで村人たちはこれを“ハナノキ”と呼ぶようになったのだそうです。

かつての南花沢のハナノキ【滋賀県提供】

さて、前述しました両方のハナノキの樹齢から考えますと、伝説と現実には約950~1150年のギャップが発生します。しかし事の真偽はともかく、近郷の人々からは葉一枚すらここから持ち出さず、代々尊い存在として崇められているのです。

この記事を公開する頃には、ちらほらと花は咲き始めていることでしょう。ただ近年の気候変動が影響し、開花時期を見定めるのは更に困難を窮めてきました。全国的な自粛ムードで梅や桜の花見どころではありませんから、この不可思議な“ハナノキ”の開花で仄かな春の訪れを感じてみてください(^^)

また秋の紅葉シーズンも違った趣が堪能できます。モミジとはまた異なる“メープルっぽい”紅葉を是非ご堪能ください(この頃なら異常なパンデミック・シンドロームも終息している・・・と思いたいです)。

今回の記事に資料をご提供いただきました滋賀県庁広報課様。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。

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